07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
MENU

NEW ARRIVAL

PROFILE

船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

ARCHIVE

お寺にある記号は、なにを意味する?

洛東




六波羅蜜寺


 六波羅蜜寺の本堂は、室町時代の建築

 空也上人像で有名な六波羅蜜寺。宝物殿には、運慶作の地蔵菩薩坐像や、「かつら掛け地蔵」と呼ばれる地蔵菩薩立像など重要文化財が多数並んでいます。とりわけ、空也上人立像をはじめ、平清盛や仏師・運慶、湛慶の姿と伝えられる像など、鎌倉時代の肖像彫刻に目を奪われます。

六波羅蜜寺
  六波羅蜜寺本堂(重文)

 しかし、気軽にお詣りできる本堂も、実は重要文化財なのです。それも、かなり古い。
 六波羅蜜寺本堂は、貞治2年(1363)の建築です。これは京都ではかなり古く、市街中心部(というと曖昧ですが)では、千本釈迦堂と通称される大報恩寺本堂(1227年)や三十三間堂(1266年)などにつぐ古さ、というイメージです。
 もちろん、周辺部では、醍醐寺五重塔(952年)が断然古く、ほかにも同薬師堂(1124年)や、大原・三千院にある往生極楽院阿弥陀堂(1148年)、赤堂と呼ばれる広隆寺講堂(1165年)など、平安時代の建物が残っています。
 ただ、中心部では応仁・文明の乱の戦火により多くの寺社が焼失したので、案外古い建物は少ないのです。六波羅蜜寺は鴨東(鴨川の東)の地にあり、14世紀の本堂を今に伝えています。


 蟇股に梵字発見!

 この本堂、横から見ると、ひさし状に突き出している向拝(こうはい)があります。

六波羅蜜寺

 この向拝は、当初からのものではなく、天正年間に付け加えられたものといいます。装飾の細部を見ても、桃山時代の趣きです。
 向拝は三間で、各間の虹梁上に彩色された蟇股(かえるまた)が乗せられています。

六波羅蜜寺 蟇股(左=南)

六波羅蜜寺 蟇股(右=北)

 左は菊、右は牡丹の彫り物ですね。
 では、センターはどうなっているのか?

六波羅蜜寺 蟇股(中央)

 こちらは蓮(ハス)になっていて、お寺で用いられるモチーフとしては至ってポピュラーです。ところが、中央の蓮花の上に青い円形のものが乗っているのが見えます。クローズアップしてみましょう。

六波羅蜜寺

 円の中に、金の記号が……

 実は、これが梵字(ぼんじ)なのです。

 梵字は、サンスクリット(梵語)を表記するための文字です。紀元前からインドで用いられていて、これで書かれていたお経もあるわけです。
 日本へは仏教、経典とともに東漸してきました。現在は日常ではお目にかからないサンスクリットですが、これに由来する言葉はたくさんあるのだそうです。
 有名なのは「塔婆(とうば)」。stupa から来ています。「檀那(だんな)」。贈り物を意味する dana に由来。
 いろいろあるのですが、私が驚いたのは「瓦(かわら)」。もともとサンスクリットの kapala だったとか。皿の意味なんだそうです。確かに、瓦は皿に似ているといえなくもない……

 私たちが、時折見かける梵字は、文章ではなく、たった1文字であるケースが多いですね。これは、その1文字で仏さまの名前を示していて(便利!)、「種子(しゅじ)」とか「種子字」「種字」と呼ばれています。
 
 つまり、この蟇股にある記号は、仏さまを表す種子だったのです。

 では、写真の種子は、どんな仏さまを表しているのか?
 
 この字は「キャ」という字で、十一面観音を示しています。
 そう、六波羅蜜寺の本尊は、秘仏の十一面観音でした。 秘仏開帳については、こちら ⇒ <六波羅蜜寺の御開帳>

 お堂の真正面に、ここに祀っている仏さまの種類を表示しているというわけです。現代人のわれわれには、ほとんど分からないのが残念ですが。

 ちなみに、聖観音は「サ」、馬頭観音は「ウーン」などと決まっています(フォントがないので、ごめんなさい)。


 では、これは?


三十三間堂

三十三間堂 三十三間堂(国宝)

 三十三間堂(蓮華王院本堂)です。
 屋根のトップに鬼瓦が付いてます。

三十三間堂

 クローズアップ。

   三十三間堂

 よく見ると、丸の中の梵字が、六波羅蜜寺同様、蓮花に乗っているのが分かります。
 文字そのものは、先ほどより複雑な形ですね。
 このくらいになると、調べるのも若干苦労。といっても、知人のYさんが以前開いた展覧会の図録『神秘の文字』を見れば、すぐに分かります。

 答えは、千手観音でした。
 それはそうですよね。三十三間堂に祀られているのは、大勢の千手観音なのですから。
 このお堂は鎌倉時代の再建ですが、鬼瓦は室町時代か江戸時代の修理の際のものではないでしょうか。

 この字は「キリーク」といいます。ただ、キリークは、千手観音のほかに如意輪観音の意味もあるし、阿弥陀如来を表していることもあるそうです。Yさんによると「尊名比定には注意を要する」ということになります。 

 このように、建物の蟇股や瓦に種子を付けて仏さまを表すことは、特別に珍しいことではなく、時折見かけます。双眼鏡と種字一覧表が必携ですが、有名寺院にもあるようなので、こんな観点から参拝してみるのもおもしろいかも知れません。




 六波羅蜜寺

 *所在 京都市東山区五条通大和大路上る東
 *拝観 境内自由  宝物館は大人600円ほか
 *交通 京阪電車清水五条より、徒歩7分

 三十三間堂(蓮華王院本堂)

 *所在:京都市東山区三十三間堂廻り町
 *拝観:一般600円、高校・中学生400円、小学生300円
 *交通:京阪七条駅より、徒歩約5分



 【参考文献】
 『特別展 神秘の文字』滋賀県立琵琶湖文化館、2000年



スポンサーサイト

コメント

非公開コメント