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船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

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「おことば」から読み解く天皇陛下のこころ - 退位をめぐる議論を理解する一助として・その2 -

京都本




  天皇陛下の本心 山本雅人『天皇陛下の本心』新潮新書


 「おことば」とは

 天皇陛下の退位を考える有識者会議も、年内(2016年)の会合は終了。いま、ちらほら上がって来た声が、天皇誕生日にどんな「おことば」があるのか、という関心です。

 この「おことば」というもの、ちょっと変わった言い方という気がします。
 振り返ってみると、明治憲法のもとでは、天皇のことばは「勅語」(ちょくご)と呼ばれていました。戦後、新憲法になって、この勅語が「おことば」に取って代わったのです。

 「デジタル大辞泉」は、「御言葉」について、

 勅語に代わる用語。
 国会開会の勅語が「お言葉」となったのは、昭和28年(1953)5月の第16回国会から。「おことば」と仮名書きになったのは昭和35年(1960)10月の第36回国会から。


 とまとめています。
 昭和天皇の時代から、すでにおことばという表現になっていたわけです。

 大辞泉では国会開会のおことばについて説明していますが、一般には、式典や記者会見など公の場でなされる発言をおことばと称しているようです。


 天皇陛下の「おことば」を読む

 今上天皇の「おことば」を丹念に読み解いた本が、山本雅人氏の『天皇陛下の本心 25万字の「おことば」を読む』(新潮新書)です。

 山本氏は、前回紹介した『天皇陛下の全仕事』(講談社学術文庫)の著者で、宮内庁記者も務めた新聞記者です。

 『天皇陛下の本心』は、副題にあるように、約25万字分にのぼる「おことば」を通覧し、12章にわたってテーマごとにまとめたものです。

 山本氏によると、天皇陛下が築いてきた象徴天皇像は、2つの側面から捉えられると言います。

 ひとつは、ご行為。
 これは、「さまざまな公務や出席の行事、それらにおける陛下のご行動そのもの」ということです。
 
 いまひとつが、おことばです。
 「行為の前提となる陛下の考え方を示す」ものと言えます。

 このおことばを読むと、「陛下の人となりがかなり分かる」と、氏は述べます。
 
 しかし実はさまざまな事象について、ときに驚くほど率直に、ときにドキッとするほど鋭く、そしてある時は胸を打つようなおことばを述べられている。そこから、陛下のご本心も、「平成」の本質もつかむことができる。(6ページ)
 
 このような意図をもって、陛下のおことばが読み解かれます。


 率直なことば

 みなさんも経験があると思いますが、自分の考えを他人に伝える際、相手の気分を害しないようしながら、ズバリと本質を伝えることは、たいへん難しいことです。
 会議などでも、まわりに気を遣いつつ、自分の意見を述べることは、なかなか難題です。

 天皇陛下ともなると、ひとつひとつの発言がマスコミで報道され、全国民に知らされるということで、発言に際しては相当な配慮と熟考がなされていることでしょう。
 けれども、本書を読むと、天皇陛下が意外に率直に語られていることに気付きます。

 例えば、琵琶湖の外来魚に懸念を示した発言です。

 外来魚やカワウの異常繁殖などにより、琵琶湖の漁獲量は大きく減ってきています。外来魚の中のブルーギルは50年近く前、私が米国より持ち帰り水産庁の研究所に寄贈したものであり、当初、食用魚としての期待が大きく養殖が開始されましたが、今、このような結果になったことに心を痛めています。(平成19(2007)年11月11日、「全国豊かな海づくり大会」での「おことば」)

 三大行幸のひとつ、全国豊かな海づくり大会でのおことばです。
 琵琶湖では、ブラックバスやブルーギルなど外来魚の増加が深刻な問題です。そのうち、ブルーギルを日本に初めて持ち込んだのが陛下自身であったことを述懐されています。
 天皇陛下の責任というわけではないと思いますが、そのことに心痛を覚えるという発言です。
 あえて言う必要もないと思われるのですが、それを述べられるところに率直な人柄が表れていると感じられます。


 仕事の工夫

 さまざまな行事の内容についても、平成流で変更が加えられています。
 例えば、お茶会の持ち方です。

 学士院賞や芸術院賞受賞者を招いての茶会なども、皇后とともに関係者と話し合い、招かれた全員と話ができるように形式を変えました。短時間ではありますが、受賞者・新会員、皆と話をする機会が持て、私どもにとっても楽しいものになりました。(平成21(2009)年4月8日、ご結婚50年会見)

 さまざまな催しで、出席した方みんなと話をできるように腐心されているそうです。
 この場合も、昭和天皇の時代は長テーブルに座る形式であったため、端に座った人たちは話づらい配席でした。
 陛下は、いくつかの丸テーブルに数名ずつが座る形に変え、両陛下がテーブルを回って、みんなと言葉を交わせるようなレイアウトに変更されたと言います。

 ひとつひとつの仕事をゆるがせにされない姿勢が、よく表れている例だと思います。


 災害と戦争と
 
 16年前までは、1年を除き毎年100人以上の死者が自然災害によって起こりました。近年の自然災害による死者の減少は、長年にわたり治山治水に携わった人々、気象情報を正確に早く伝えようとしている人々などさまざまな関係者の努力の結果であり、心強く思っております。(平成14(2002)年12月19日、69歳のお誕生日会見)

 山本氏は、短い期間で交代する首相などの政治家と異なり、長いスパンで国内の出来事を見ている点に天皇陛下ならではの特質をみています。

 地域的にも、都市部など特定の地域に偏らず、離島も含めた国内の隅々まで広い関心を示されています。

 戦争については、絶えることなく考えておられる問題です。

 私がむしろ心配なのは、次第に過去の歴史が忘れられていくのではないかということです。昭和の時代は、非常に厳しい状況の下で始まりました。昭和3年、1928年昭和天皇の即位の礼が行われる前に起こったのが、張作霖爆殺事件でしたし、3年後には満州事変が起こり、先の大戦に至るまでの道のりが始まりました。第1次世界大戦のヴェルダンの古戦場を訪れ、戦場の悲惨な光景に接して平和の大切さを肝に銘じられた昭和天皇にとって誠に不本意な歴史であったのではないかと察しております。昭和の60有余年は私どもに様々な教訓を与えてくれます。過去の歴史的事実を十分に知って未来に備えることが大切と思います。(平成21(2009)年11月6日、ご即位20年会見)

 自身は小学校6年生の時に終戦を迎えられましたが、父である昭和天皇の戦争への対峙の仕方も常に意識されているようです。

 このような戦争への発言は、本書刊行後の戦後70年に至るまで、なお強まっているように思えます。
 2015年8月15日の全国戦没者追悼式のおことばで、「ここに過去を顧み、さきの大戦に対する深い反省と共、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心からなる追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」と、「深い反省」と述べられたことは陛下自身の省察を物語っているのでしょう。

 戦争で苦労した人たちを等しく見詰めていこうという姿勢にも、強いものがあります。
 皇太子時代に、こんな発言をされています。

 私なんかどうしても腑に落ちないのは、広島の時はテレビ中継がありますね(筆者補足・原爆が投下された日に現地で行われる平和記念式典)。それに合わせて黙禱するわけですが、長崎は中継ないんですね。やはり同じような被害を受けたわけだから、当然同じに扱われるべきものなんじゃないかと思うんですけれども。それから沖縄戦も県では慰霊祭を行っていますが、それの実況中継はありませんね。(中略)どういうわけですかね。(昭和56(1981)8月7日、夏の定例会見)

 皇太子時代とは言え、かなり踏み込んだ表明のように思えます。
 なかなかこういう点は意識しづらいし、発言する人も少ないのではないでしょうか。


 国民との信頼関係

 侍従を務められた渡邉允(まこと)氏も述べられていましたが、天皇陛下は皇室と国民との信頼関係の醸成に意を注いで来られました。折に触れ、記者の質問に対してそのことを語っておられます。

 私の皇室に対する考え方は、天皇および皇族は国民と苦楽をともにすることに努め、国民の幸せを願いつつ務めを果たしていくことが皇室のあり方として望ましいということであり、また、このあり方が皇室の伝統ではないかと考えているということです。(平成17(2005)年12月19日、72歳のお誕生日会見)

 「このあり方が皇室の伝統」と言われているのは、明治、大正、昭和と、戦前の天皇の位置付けが特殊なものだった、という意味合いです。
 もちろん、このような「伝統」が、現代ともマッチすると考えておられるのでしょう。

 NHKが今上天皇即位20年に際して行った世論調査によると、皇室に対して親しみを感じている国民は62%です。
 また、即位から20年で、皇室との距離が近くなったと感じている国民が62%で、変らない、遠くなったと感じる人の36%を上回っています。
 そして、34%の国民が、距離を縮めるためには、天皇自身の考えや思いをもっと積極的に伝えるべきだ、と回答しています。
 これは想像ですが、天皇陛下はこのような調査結果も十分に踏まえ、ご自身のことばを述べておられるのではないでしょうか。

 天皇陛下のおことばは、書籍としても刊行されていますし、宮内庁のウェブサイトでも読むことができます。
 『天皇陛下の本心』は、その膨大な発言を読み込んで、分かりやすく示した本として、得難い案内書となるでしょう。
 最終章「次世代への継承」には、公務軽減や「定年制」など、今回の「生前退位」に関連する発言も収録されています。




 書 名 『天皇陛下の本心 25万字の「おことば」を読む』
 著 者  山本雅人
 刊行者  新潮社(新潮新書595)
 刊行年  2014年



 【参考文献】
 加藤元宣「平成の皇室観」(「放送研究と調査」2010年2月号所収、NHK放送文化研究所)


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