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船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

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天皇陛下の日常を知る本 - 退位をめぐる議論を理解する一助として ー

京都本




  天皇陛下の全仕事 山本雅人『天皇陛下の全仕事』講談社現代新書


 2016年の大きな論題のひとつ「生前退位」 

 今年も、あと僅か。
 さまざまなニュースが駆け巡った1年でした。

 海外では、米・トランプ新大統領の誕生、英国のEU離脱、韓国・朴大統領弾劾、国内でも、熊本地震、舛添→小池の東京都問題、自公参院選勝利、オバマ大統領広島訪問、スポーツでは、リオ五輪、カープ優勝、そして、SMAP解散からピコ太郎まで。内外とも盛りだくさんでした。

 そんな中で、私が重く受け止めたのが、天皇陛下の「退位」の意向表明です。
 退位の意向を受けて、政府で有識者会議が設置されました。今日(12月14日)、年内最後の会合が開かれて、恒久的な制度で退位を定めるのではなく、特例として検討していくという方向性が見えて来たようです。

 この有識者会議の正式名称は「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」と言います。
 天皇陛下は高齢ですが、公務が多すぎて負担が大きいから、それを軽くするためにどういう方法を取るのか、ということです。

 私は、この7月、天皇陛下の「生前退位」(聞き慣れない、かつ生々しい言葉で「譲位」ではだめなのかなと思いました)がスクープ報道され、それに続いて8月8日にご自身のビデオメッセージ(「お気持ち」)がテレビ中継されました。私も、リアルタイムで見ました。
 そこで語られたメッセージの内容には、うなずける面も多いなと思いました。やはり、天皇の職務を自ら行ってきた人でなければ述べられないような内容であると感じました。

 それにしても、私はこれまで、天皇陛下の日常についてさしたる関心を抱いていませんでした。
 それで少し反省して、お盆前後に、4、5冊ですが今回の問題を考えるための本を読んでみたのでした。


 “全仕事” を通覧

 天皇陛下の公務について、真正面から扱った書物があります。
 山本雅人氏の『天皇陛下の全仕事』(講談社現代新書)です。

 山本氏は新聞記者で、宮内庁担当をしていたこともあります。
 2009年の刊行ですので、特に今回の問題をうけて著されたものではありません。
 新書ですが、360ページに及ぶ大著で、タイトル通り、23章にわたって天皇陛下の仕事を網羅的に紹介しています。類書のない労作です。

 ひと口に、天皇陛下の「仕事」といっても、その性質はそれぞれに異なります。
 本書では、その仕事を大きく3つに分類しています。

 1つめは、国事行為。これは憲法に定められた仕事で、首相の任命、国会の召集、栄典の授与など、13の行為があります。

 2つめが、公的行為。明文規定はありませんが、天皇の「象徴」という地位に基づき、公的な立場で行われるものです。外国訪問、地方訪問、一般参賀、歌会始、園遊会、宮中晩餐会などがあります。
 地方訪問のうち、毎年行われれる国民体育大会(国体)、全国植樹祭、豊かな海づくり大会は、三大行幸啓と称されるそうです。

 3つめは、その他の行為(私的行為)です。この中でも、やや公的性格がある福祉施設訪問などと、まったく私的な宮中祭祀や、コンサート、展覧会、大相撲などの鑑賞、観戦、専門のハゼの研究、趣味のテニスなどが、これに当たります。
 私的な行為の中で、最も天皇らしいものが宮中祭祀(皇室祭祀)でしょう。
 正月の歳旦祭(1月1日)から始まって、昭和天皇祭(1月7日)、春季皇霊祭(春分の日)、神武天皇祭(4月3日)、秋季皇霊祭(秋分の日)、新嘗祭(11月23日)など、たくさんの祭祀が執行されます。

 これらのうち、国事行為は定められているものですから、激増激減しないものでしょうけれど、そのボリュームはかなりあるようです。
 例えば、毎週火曜と金曜には、書類の決裁を行っているそうです。署名したり押印したりするわけですが、内閣からの上奏書類を数えると年間1,000件以上に上ると言います。
 山本氏がまとめた天皇陛下の仕事の「性質別の内訳」を見ても、最も多いのは「人と会う」53%ですが、次に多いのが「事務処理」14%なのです。別の分け方である「行事別の内訳」でも、「執務」14%がトップとなっています。
 ちなみに「(外国賓客など)会見・引見」は7%、「祭祀」は5%、報道等で目立って見える「記念式典」などは僅か3%に過ぎません。意外な事実と言えるでしょう。

 “負担軽減” という意味で問題となるのが、公的行為です。これは何をやるかやらないかという定めがないので、増やそうと思えば増えていきます。つまり、負担増になるわけです。
 陛下は、地震などの際に被災地訪問を積極的に行われています。これは公的行為に当たるもので、憲法に定められた国事行為ではありません。まさに、お気持ちから発する「平成流」の仕事なのです。
 また、太平洋戦争の激戦地(沖縄、サイパンなど)への追悼・慰霊の訪問も、ここに分類されます。昨年(2015年)のパラオやペリリューへの旅もこれに当たります。

 『天皇陛下の全仕事』には、細々としたルーティーン的な仕事や毎年行われる催しから、外国訪問のような大きな行事まで、委細漏らさず記しています。
 天皇陛下の負担軽減を考える際、基本的文献となる良書と言えるでしょう。


 側近のみた天皇陛下

  天皇家の執事 渡邉允『天皇家の執事』文春文庫

 併せて読むと理解が深まる本が、渡邉允(まこと)氏の『天皇家の執事 侍従長の十年半』(文春文庫)です。
 渡邉氏は、1996年から10年半にわたり侍従長を務めて来た方です。

 本書も、陛下の仕事を種類別に分けて章ごとに語っています。

 印象的なのは、第6章のタイトル「人々に「心を寄せる」ということ」です。
 ここでは、福祉施設への訪問や災害のお見舞いなどについて取り上げ、天皇皇后両陛下の思いに触れています。
 天皇の最も重要な仕事のひとつに祭祀があり、それは「祈り」という行為です。一方、直に国民と触れ合って、言葉を交わす部分に、この「心を寄せる」という態度があるのでしょう。
 皇太子時代、そして平成になってからも、積極的に進められてきた部分だと思います。これが公的行為を拡大されていると捉えることもできます。

 また、渡邉氏は、傍でつぶさに見詰めてきた方だけあって、さまざまな逸話が紹介されています。

 例えば、沖縄に関する陛下の思いを述べた章では、琉歌についての話が印象的です。
 琉歌とは、八・八・八・六調の沖縄の短歌です。昭和40年代に外間守善氏の進講を受け、昭和50年(1975)、初の沖縄訪問のあと、2首の琉歌を詠まれたそうです。
 自身で「おもろそうし」所載の1,200首の中から抜き書きを作り、琉歌を学ばれたと言います。
  
 沖縄海洋博(1976年)の際、次の琉歌を作られました。

  広がる畑立ちゆる城山肝のしのばらぬ戦世の事
 (フィルガユルハタキ タチュルグスィクヤマ チムヌシヌバラヌ イクサユヌクトゥ)

 このようなエピソードは、一般にはなかなか伝わって来ないものです。
 渡邉氏は、国民と天皇陛下(皇室)との間には、信頼関係が醸成されていると考えています。そして、それは国民のために尽すという陛下の思いに基づいた公務によって実現してきたと考えられているようです。
 
 公務軽減は、すでに渡邉氏の在任中から課題となっていました。しかし、その公務が国民との関係を支えているとすれば、容易に軽減するというわけにもいかない、ということなのでしょうか。


(この項、つづく)




 書 名 『天皇陛下の全仕事』
 著 者  山本雅人
 刊行者  講談社(講談社現代新書1977)
 刊行年  2009年

 書 名 『天皇家の執事 侍従長の十年半』
 著 者  渡邉允
 刊行者  文藝春秋(文春文庫)
 刊行年  原著 2009年(文庫版 2011年)


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