05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
MENU

NEW ARRIVAL

PROFILE

船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

ARCHIVE

あやめ板、大和打 …… この風流な名前の建築とは?

建築




善田好日庵


 先斗町の景観を彩る要素

 先日、京都市の景観保全に関するウェブサイトで、先斗町についての記事を見ました。
 「平成27年4月1日から先斗町地区を「先斗町界わい景観整備地区」に指定します」という長い名前のリーフレットです。

 先斗町(ぽんとちょう)は、鴨川の西側に、川に並行して約500mつづく細い街路で、両側にはお茶屋さんなどが並び、たくさんの路地もあって、独特の景観を呈しています。
 「先斗町界わい景観整備地区」の指定は、この雰囲気のある景観を維持するための施策です。

 その対策のひとつとして、建物のデザインのルール化があります。
 詳しくは、京都市のサイトを見ていただきたいのですが、私が気になったのは、「らしさ」を醸し出す建物各部分の名称なのです。

 玄関庇(ひさし)、欄干(らんかん)、あやめ板、簾(すだれ)掛け、犬矢来(いぬやらい)、駒寄(こまよせ)といった言葉の数々。

 みなさんも気になる言葉、“?” な言葉があったと思うのですが、私がとても引っ掛かったのが「あやめ板」です。


 あやめ板とは?

 あやめ板。

 まず考えるのは、語源ですよね。
 で、たぶん、植物のアヤメ(菖蒲)から来ているに違いない、と思います。

 そして、辞書を引いてみるわけですが、「あやめ板」なんてものは、なかなか出てこないわけです(笑)
 でも、よく見ると、『建築大辞典』(彰国社)に、「あやめばり」という項が立っていたのです。
 で、その文字なんですが、「綾目張り」!

 綾目でしたか。
 洋服の柄なんかでも、杉彩(綾杉)模様というのがありますね、英語で言うヘリンボーンです。右の列と左の列のV柄が逆になっていて、それを繰り返す模様です。
 余談ですが、日本人が見ると、このV字模様、杉の葉に見えたり、矢筈に見えたりするのですが、英語圏ではヘリンボーン=ニシンの骨に見えるのですね。おもしろい文化の違いです。

 辞書に戻ると、「綾目張り」のところには、「やまとばり」を見よ、と書いてあります。

 さっそく「やまとばり」を引くと……

 大和張り
 屋根板、天井板、羽目板などの張り方の一。
 板を交互に重ね合わせて打ち付ける手法をいう。
 屋根や塀などの場合はそれぞれ大和葺き、大和塀と称される。
 (中略)
 「大和打ち」、「綾目張り」ともいう。(『建築大辞典』)


 と、文章を読んでも、さっぱり分からないでしょう(笑)
 そこで、この図を見てください。

 大和打

 おなじみの中村達太郎博士の『日本建築辞彙』の図です。
 つまり、タテの板を、前・後ろ・前・後ろ……と張っていく方法でした。
 それも、右の板と左の板を、ちょっとだけ重ねるようにするのが通例です。

 中村博士は、こう説明しています。

 大和打
 板ヲ交互ニ表裏ニ打付クルコト。其(その)表板ハ裏板ト一致セズシテ板の中心線ハ裏ノ板間ノ真墨ニ一致ス。図ヲ見ヨ。(『日本建築辞彙』


 「真墨(心墨)」は、部材の中心線のことですが、論理的な説明です。でも、分かりにくい(笑) 


 「大和塀」?

 さて、そういう大和打(大和張り)で作った塀を「大和塀」と呼ぶと、『建築大辞典』は書いています。
 ただ、大和塀には2つの意味があって、よく用いるのは、杉皮などを張った塀で、茶庭などに建てる数寄屋風のものです。『日本建築辞彙』や、岸熊吉『日本門牆史話』は、こちらのみを大和塀と説明しています。
 でも、現代的には、大和打の大和塀もOKみたいです。

 名前の話が長くなりました。
 実例を見てみましょう。

 大和打
  大和打

 こんな感じですね。

 この場合、水平材を上下2本通して、その裏表にタテの板を張っています。板の上には、長い水平材を通していますが、これは笠木で、名の通り、塀を雨から守る笠(傘)の役目を果たすものです。

 京都市内の中心部を見て回ると、塀の上にプラスアルファとして、大和打を取り付けるケースが圧倒的です。

 京料理にしむら

 中京区の料理店。もとは住まいに使われた仕舞屋でしょう。
 これでよく分かりますが、下の塀だけでは家の2階が見えてしまうので、目隠しの塀として大和打をプラスしているのです。

 大和打は、視線は完全にさえぎるけれど、風は通るので、勝手がよいのですね。

 善田好日庵

 こちらも中京区で、お茶室のようですが、塀の下部には犬矢来を付け、上部は大和打です。その上にさらに樹木を伸ばして、内部が全く見えないようになっています。
 黒板塀に犬矢来、大和打と、京都らしい意匠と言えるでしょう。

 善田好日庵

 もちろん、大和打で塀全部を作ってしまう方法もあります。
 ただ、そうやってしまうと、余りにも実用的というか、語弊を招きかねない言い方ですが、庶民的になるというか、そういう印象になります。そのために、市内中心部のお宅には使われませんね。

 それにしても、冒頭紹介した「あやめ板」という呼称は、あまり使われないようです。
 個人的には、あやめ板という言い方が、上品で好ましいと思うのですが、いかがでしょうか。




 【参考文献】
 中村達太郎『日本建築辞彙』丸善、1906年
 岸熊吉『日本門牆史話』大八洲出版、1946年
 『日本建築大辞典 第2版』彰国社、1993年
 「平成27年4月1日から先斗町地区を「先斗町界わい景観整備地区」に指定します」京都市都市計画局、2015年


スポンサーサイト

コメント

変わり行く旧街道の景観

船越様のブログのお陰で、京都市内を濃密に散策出来るようになり、更に地元の旧街道沿いにも古い建物が残っているので、京の伝統的建築物との比較も出来るようになりました。

しかし、京の伝統的建築物が「観光資源」として今後も保存されて行くのに対し、観光地で無い地域の伝統的建築物は何れ消えて行くのでしょう。

ご愛読ありがとうございます

いつもありがとうございます。

文化財の保存は、いつの時代も難しいです。
高度成長期は、スクラップ&ビルドで進んできて、今から振り返ると「あれを残しておけばなあ」という話になってしまいます。
現在の私たちが行っていることも、将来からみれば批判の的になるのかも知れませんね。

京都という伝統都市でありながら、140万市民が生活を送っている“生きている都市”を「保存」するのは、なかなか難問です。
私もいつも街中を歩いて、「ちょっとビルを建てすぎたなあ」と思いますけれども、時代時代の商売や生活を維持するために、仕方なかった面もあるのでしょうね。
もちろん、よく考えておけばよかった、という後悔もあるかも知れませんが。
非公開コメント