07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
MENU

NEW ARRIVAL

PROFILE

船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

ARCHIVE

きょうの散歩 - 国立文楽劇場の夏の公演は、井上ひさし作「金壺親父恋達引」 - 2016.8.3 -

その他




文楽絵看板


 夏の公演は3部構成

 夏の暑い盛り、大阪・国立文楽劇場で行われている夏休み文楽特別公演(2016年)に行ってきました。

 国立文楽劇場
  国立文楽劇場(大阪市中央区)

 夏の公演は、例年、3部構成です。
 第1部は「親子劇場」。第2部が中心的な公演で、今年は「薫樹累物語(めいぼくかさねものがたり)」と「伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」。いずれも夏らしい演目です。これは先日拝見しました。

 夏休み公演

 今日は、第3部「サマーレイトショー」。午後7時開演。
 演目は「金壺親父恋達引」。
 「かなつぼおやじ こいのたてひき」と読みます。

 なんとなく分かると思いますが、“お金、お金”と強欲なオジサンが、あら珍しや恋をめぐるトラブル? に巻き込まれる物語です。
 上演時間は、1時間5分ほどで、朝・昼・夜の3段構成なのですが、場は主人公の呉服屋の場だけです。


【あらすじ】
 呉服屋・金仲屋(かねなかや)の主・金左衛門は、お金が大好きで、庭に小判を入れた壺を埋めていて、「金壺殿」と崇め奉っています。

 今は男やもめですが、このたび町内の美しい娘・お舟を30両の持参金付きで嫁に迎えることになりました。
 ところが、息子の万七は密かにお舟に恋心を抱いています。どうやらお舟も万七を好いている様子……

 娘のお高も、店の番頭・行平と恋仲で、いざとなったら駆け落ちしようという勢いでした。

 夜になり、婚礼に来たお舟ですが、万七と仲睦まじい様子。それに気付いた金左衛門は逆上。
 万七とお舟は駆け落ちしようと決心し、新生活の資金にと、こっそり庭の金壺を掘り出します。

 一方、お高も行平と駆け落ちするため、庭の金壺を探しますが、すでに壺はなく……。それに気付いた金左衛門は大慌て。行平が金壺泥棒だと決めつけます。

 そこへやってきた知人の呉服商・京屋徳右衛門。実は、徳右衛門は、かつて長崎屋徳兵衛という名で手広く商いをしていましたが、家族で乗っていた船が駿河灘で難破し、一家離散して、名を変えていたのでした。
 そこで、行平が持っていたお守りと、お高が持っていたお守りが同じものと分かり、実は二人は兄妹だと判明しました! 
 さらに、その父が徳右衛門であることも ‼ 
 意外な家族再会に、徳右衛門らは店を出ていきます。

 ひとり残された金左衛門は、また倹約の精神を発揮して、金壺殿を抱きしめるのでした。 


 金壺親父恋達引ポスター


 井上ひさしの戯曲

 かなりコミカルなお話です。
 古典ではなく、昭和47年(1972)に、作家の井上ひさしが書き下ろした新作戯曲で、モリエールの「守銭奴」を翻案したと言います。当時テレビやラジオでは放映されたそうですが、舞台で上演されるのは今回が初めてです。

 お客さんの反応は、かなり笑いも多めで、うけていましたね。
 
 実に他愛ないことなのですが、例えば、3段のうち「昼の段」が始まる最初の詞章は、

  昼、引潮の大川の、親巣はぐれた羽抜け鳥……

 と始まるのですが、ここで笑いが起きたんですよ。分かりますか?

 文字づらでは全く分からないのですが、文字久太夫が開口一番「昼」と言います。
 これは、大阪弁ですから「ひぃるぅ」となるんですね。
 ただ一言、「ひぃるぅ」とだけ言う、ここがお客さんには面白いわけです。私も思わず笑ってしまいました。

 実は、こういうところに浄瑠璃の愉しさが隠されている気がします。
 義太夫節は文字で読むものではなく、耳で聴くものですから、その音(おん)が大事になります。だんだん馴染んでいくと、そのリズムが心地よくなってくるわけです。

 だから逆に言えば、リズムが異なると違和感も生じます。
 例えば、こんなお高のセリフ。

  (前略)金壺を埋めているところを見たことがあるの。

 文字で見ると変ではないのですが、音で聴くと変なのです。
 たぶん、浄瑠璃の女性の言葉としては、「……見たことがある」となるはずなのですね。
 リズムが<見た/ことが/ある>なのです。

 上に続くセリフも、「持参金のかわりにもらって行きましょうよ」となっているのですが、ここもおそらく「……もらって行きましょ」というのが、らしいリズム。「もらって」も「もろて」でもよいかも知れません。

 細かい話なのですが、こういう独特のリズムが心地よさを醸成していることがよく分かります。


 “実は…” に大爆笑!

 物語の最後に、恋仲の行平とお高が実は兄妹だった! という意外な事実が打ち明けられます。歌舞伎などでもよくある「実は○○」というやつですね。

行平  ところが京屋さんとやら、二人の子どものうち、上の男の子、つまりこの私だけが、駿河の漁師にたすけられ、命を長らえていたのです。この守り袋がその証拠。

 と、行平は袷(あわせ)の襟かっぱと押し開げ、金らんどんすのお守りを京屋に見せて、

行平  このお守りに、長崎屋徳兵衛一子行平、と糸で縫いとってあります。

 といえば、お舟が行平にすがりつき、

お舟  お兄さん! あなたこそわたしのお兄さんよ。わたしも同じお守りを持っています。このお舟と母さまも伊豆の漁師にすくわれました。


 「お兄さん!」のところで、場内爆笑(笑)
 この近世的ご都合主義に、お客さんが笑ったのです。

 これには驚き、かつ不思議でした。
 歌舞伎では、いつもこの展開が登場するのですが、お客さんが笑った記憶がありません。
 どうも、今回は新作だったせいか、演出のせいか、はたまた言葉が現代語っぽいせいか、おもしろおかしい場面として認識されたみたいなのです。

 これには、少し考えさせられました。
 もしかして、江戸時代の人たちも「実は……」のところで笑っていたのでは、と。

 笑ったのか笑わなかったのか、結論は出ないのですが、おもしろい問題提起を受けた気分になった「金壺親父」観劇でした。

  金壺親父恋達引バナー




 国立文楽劇場

 所在  大阪市中央区日本橋
 見学  劇場として公演あり
 交通  大阪市営地下鉄「日本橋」下車、徒歩すぐ



 【参考文献】
 国立文楽劇場編『文楽 床本集』日本芸術文化振興会、2016年7月


スポンサーサイト

コメント

非公開コメント