路線図というもの、について考えた
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ロンドン地下鉄の路線図
この週末、某所で簡単な研究報告をする必要が生じ、何について話そうか、しばらく考えていました。
“図像”がテーマのシンポジウムだったので、庶民的なものにしようかと思い、考えついたのが「路線図」でした。
路線図。
電車や地下鉄に乗るとき見るアレですよね。
路線図の歴史は、鉄道の歴史とともにあるわけですが、どの国・地域も最初は1本の線から始まります。延伸・増設されるにつれて、路線図も網の目のように複雑になってゆきます。
路線図研究? で最も興味を集めている存在は、ロンドンの地下鉄(チューブ)のようです。
ロンドン地下鉄の路線図は、20世紀の初頭に始まりますが、とりわけ1930年代に考案されたものは画期的なデザインだと評価されています。すでに美術的価値も認められていて、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)やニューヨーク近代美術館(MoMA)でも収集・展示されているそうです。

ロンドン地下鉄の路線図についての論文
その路線図は、水平の線と垂直の線、そして斜め45度の線だけで構成されるシンプルなもの。実際の地理から掛け離れた図案的なものです。
考案者はハリー・ベック(Harry Beck)と言い、プロのデザイナーではありませんでした。図の雰囲気から「電気回路図をヒントに作った」と、まことしやかにささやかれていて、これは都市伝説かも知れませんね。
いずれにせよ、地図、あるいは実際の地理に捉われないベック型の路線図は、現在の路線図の主流となっています。
路線図と運転系統図
ひとくちに鉄道線の図と言っても、細かく分けると、路線図と運転系統図があります。
路線図というのは線路と駅を示したもので、線路が1本の線で描かれています。

路線図の例
一方、運転系統図は、昔の市電(路面電車)などでよく使われました。これはバスでも用いられます。
市電やバスは「○号系統」といった運転系統によって運行されていますが、その運行ルートを示した図なのです。だから、1つの線路(道路)上に何本もの線が引かれています。
なので、かなり複雑です(笑) 私も、たまに京都市バスの運転系統図を見ますが、複雑すぎて、どれがどこを走っていくのかよく分かりませんね。
かつて都市交通の花形だった市電の場合、市街地に縦横無尽にレールが敷かれていました。そこを電車が曲折しながら走っていたのですが、利便性のため多様な運転系統が設定されていたのです。それを図示したのが、運転系統図です。

運転系統図の例(色分けで示している)
戦前は、市電全盛なので、運転系統図がさかんに作られていました。
地理から離れているといっても、完全に地図的要素を払拭できません。例えば、北が上になる、というのはその典型です。
ところが、井口悦男氏の研究によると、6大都市のなかで、東京市電(都電)の路線図だけは<西が上>になるものが多いのだそうです。不思議ですが、これは西を上に描く江戸時代の絵図以来の伝統なのだそうです。
大阪の場合、私が調べたところ、川や堀を忠実に図示する傾向が強いようです。堀や川は市電と直接関係がないとも言えますが、大阪ではそれが地理を把握する大切な要素になっていたのかも知れません。
市電の路線図は、地下鉄と異なって地上を走っているため、どうしても地理と無関係ではないようです。
現在でも、地下鉄の路線図はシンプル、バスの路線図は複雑(運転系統図のため)といった特徴があります。
路線図も、細かく見ていくと、なかなか面白そうです。
【参考文献】
吉田武夫「路線図の典型はいかにつくられたか」(「東海大学紀要 教養学部」32、2001年)
井口悦男「東京市電(都電)運転系統図の推移とその特色」(「地図」33、1995年)
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