禅宗建築の宝庫・東福寺から、今回は偃月橋をクローズアップしてみた
|洛東|

深い谷・洗玉澗に架かる3つの橋廊
今週は、少し案内する必要があって東福寺を訪れる予定です。
東福寺は何度も行っているお寺、大好きなお寺のひとつですが、やはり人を案内するとなると、改めて下見をしないと気が済みません。
それで、土曜日の午後、ぶらっと散歩してきました。

東福寺 仏殿
東福寺へは、JR、または京阪の東福寺駅から訪れる方が多いでしょう。この駅は、お寺の北にあります。
いくつかの古びた門を見、多くの塔頭の間を抜けて歩いて行くと、谷間に架かった臥雲橋(がうんきょう)に至ります。この谷を洗玉澗(せんぎょくかん)と称しています。
臥雲橋の上流を眺めると、有名な通天橋が架かっており、紅葉が美しく望めます。

青もみじの通天橋
もみじの美しさに目を奪われるのですが、下を見ると、この渓谷の深さに驚かされます。
この川は、三ノ橋川と言い、稲荷山に発して西流し、鴨川に注いでいます。
「花洛名勝図会」(1864年)の観楓の図を見ても、谷の深さがうかがえます。

この渓谷には、3つの橋廊が架かっています。下流から、臥雲橋、通天橋、偃月橋です。
どれも素晴らしい名前ですが、「臥雲」は雲の中に横たわるという意味で、「隠居して仙道に志すこと」(『日本国語大辞典』)を言います。まったく禅寺にふさわしい橋ですね。
「通天」は、天に通じるということ、それほど空高く架かっているという意味ですね。深い谷に架けられた橋にぴったりの名前です。
そして「偃月(えんげつ)」。偃は伏すという字義で、偃月は半月を指します。
偃月橋の棟札

偃月橋(重要文化財)
屋根の付いた3つの橋廊のうち、最も上流にある偃月橋(えんげつきょう)。
山内の端にあり、重森三玲の庭がある方丈の裏手、龍吟庵と即宗院に行く手前に架かっています。
こう見ると、なんでもない橋のように思えます。
しかし、実際は重要文化財に指定されている建築で、慶長3年(1603)に造られました。

奥に龍吟庵方丈(国宝)が見える
シンプルな印象です。
桁行は11間。「偃月」の額が掲げられています。

龍吟庵側から見る
振り返っても、同じ風情。
中程の棟木に棟札が打ってあります。

拡大写真。

左の行に「旹(時)慶長第八癸夘年十月日」とあって、慶長8年(1603)再造と示しています。
修理をした大正15年(1926)の棟札(写真右)や、平成13年(2001)の棟札(左)も打たれています。

なにげなく渡ってしまう偃月橋ですが、400年も前の桃山時代の建造とは、驚きです。
ちなみに、臥雲橋は江戸後期(弘化4年=1847年)のもので、府指定の文化財。
通天橋は、戦後の昭和34年(1959)、台風で落橋し、その2年後に架橋された新しい橋なのだそうです。
東福寺 偃月橋(重要文化財)
所在 京都市東山区本町
拝観 自由
交通 JR・京阪「東福寺」下車、徒歩約10分
【参考文献】
『大本山 東福寺』東福寺、2010年
『京都府文化財総合目録 平成18年版』京都文化財団、2006年
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