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PROFILE

船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

ARCHIVE

かなの崩し字、石造物で調べてみると……





大原口道標


 平仮名と歴史的仮名づかい

 この前、石造物の変った漢字について見てみました。
 今回は、平仮名。特に、崩し字です!
 おそらく、1回では終わらないので、手もとにある写真からピックアップして、10字ほど集めてみました。

 灯籠、鳥居、道標などの石造物を見ていくと、平仮名が多いのはやはり道標です。
 道しるべは、いろんな旅人が見ますから、分かりやすく仮名で書かれているのでしょう。
 もちろん、お寺の境内などにも、平仮名を使った石造物があったりします。

 ということで、まずこちらの写真。

  革堂

 なんと書いてあるでしょうか?

 文字は、なんとなく読めますね。

  「一条かうだう」 

 でも、「かうだう」って何だろうか?

 実は、昔の仮名を読む際に、崩し字以外にもうひとつの難題があります。
 それは、歴史的仮名づかい(遣い)。旧仮名づかいとも言います。

 例えば、「大阪」は現在では「おおさか」ですが、歴史的仮名づかいでは「おほさか」です。
 「京都」は「きやうと」。つまり、「京」は「きゃう」であり、詰まった音も小さな文字(ゃ)で書かず、大きいまま(や)なので、こうなっています。
 「観音」だと、「くわんおん」となります。

 一定のルールがあるわけですが、覚えるより慣れろ、というわけで、やってみましょう!

 上の写真。「かう」ですが、これは「革」の読み。現在では「こう」です。また、「だう」は「堂」で、「どう」になりますね。
 つまり、この石標は「一条革堂(いちじょうこうどう)」と書いてあるわけです。
 寺町丸太町下ルの行願寺(通称・革堂)の前に建っています。


 仮名の崩し字

 この中に、ひとつ変わった仮名がありました。

 革堂

 これですよね。
 先ほどは、「か」と読みました。
 読みましたが、今の「か」とは少し形が違っています。

 実は、「か」という平仮名は、「加」を崩して出来たので、「加」から「か」へ変化する途中の姿として、このような形が登場するのです。

 でも、これは大丈夫です。十分読めます!

 次の写真。

  荒神橋

 斜めの写真で、すみません。
 上の3文字は、「くわう」ですね。これも歴史的仮名づかいで、「荒」(こう)を読んだもの。

 問題は、その下でしょう。何文字あるのかも、よく分かりません。

  荒神橋

 この部分、「しんはし」と書いてあります。
 あわせて、「くわうしんはし」 → 「荒神橋(こうじんばし)」。
 そう、これは鴨川に架かる荒神橋の親柱でした。

 難しいひとつめは、「しんはし」の最初の文字。
 この「し」は、漢字の「志」を崩したもの。
 実は、現在私たちが使う「し」は、漢字の「之」を崩したもので、「志」とは全く違います。だから、馴染みがないのですね。

 その下は「ん」として、次の「は」も難解です(写真も悪いです)。
 この「は」は、「者」を崩した文字なのです。なんとなく漢字の面影がありますか?
 明治生まれの私の祖母の名前は「はつ」でしたが、「者」を崩した「は」を用いていました。
 今、私たちが使っている「は」は、「波」の崩し字。こちらも由来が異なるのです。

 「志」や「者」を崩した平仮名は、昔はふつうに使われていました。石造物でもよく見かけます。


 まだまだ難解な文字が!

 余談ですが、世の中には “崩し字マニア” のような方が大勢おられます。上のような崩し字(もちろん漢字も含む)を読むのが楽しい! という方ですね。各地で開催されている古文書講座は、いつも盛況です。

  白川橋道標

 京都市内で現存最古の道標として知られる白川橋道標。
 2行ありますが、なんと書いてあるでしょうか?

 1行目は漢字まじりで、「是ゟひだり」 と書いてあります。
 「是(これ)」の後の「ゟ」は、前々回ご紹介した合字というもので、「よ」と「り」が合体した文字「より」です。
 
 その下の「ひだり」も難しそう。「だ」に見えませんよね。
 私たちが使っている「た」は、「太」の崩し字です。よくよく「た」を見ると、傾いた「太」みたいに見えて来ませんか?
 ところが、道標にある文字は、「多」を崩した「た」なのです。
 この字も、結構よく使います。

 2行目。

   「ちおんゐん」 (知恩院)

 まず、2文字目が難解。
 「お」なのですが、この仮名は、漢字の「於(おいて)」を崩して出来ました。
 この道標では、「於」に近い書体になっているのです。

 そして、4文字目。
 
 「ゐ」

 これは、わ行の「ゐ」(い)。
 カタカナで書くと「ヰ」です。よく「ウヰスキー」と書いてある、あの字の平仮名です。

 つまり、「院」は歴史的仮名づかいでは「ゐん」なのでした。


 まだまだある!

 平仮名は、現在とは異なる字体が多いですね。
 次は、吉田本町道標。京都大学の脇にあります。

  吉田本町道標

 5文字あります。
 4字目が分かりづらいですね。

  「百まんへん」 (百万遍)

 百万遍(ひゃくまんべん)は、地名です。
 やはり、「へ」が……

 現在使われている「へ」は、漢字「部」の旁(つくり)「阝」を崩したもの。
 ところが、この「へ」は「遍」の崩し字なのです。「遍」が変わったと思えば、なんとなく想像できますね。

 同じ道標の別の面です。石が割れていて読みにくいですが、2行とも地名です。
 
  吉田本町道標

 ここは志賀越え。
 滋賀県の地名が刻まれているのです。

  「さかもと」 (坂本)
  「からさき」 (唐崎)

 1行目と2行目に、それぞれ「か」が出て来ます。
 2行目冒頭の「か」は、先ほど出てきた「加」の崩しでよいとして、では、1行目の2字目の「か」は何でしょうか?

 これは、「可」を崩した仮名なのです。
 横棒(ー)の下に、クルッと一回転したような文字。
 ここでは横棒が省略されて、単にクルッと、「の」のような字体になっています。

  大原口道標 大原口道標

 別の例ですが(大原口道標)、右の行の「下かも」では、より漢字の「可」に近い形態になっています。


 ゐ、ゑ、を

 ところで、わ行には、「ゐ」(い)、「ゑ」(え)、「を」(お)の仮名が配されています。
 同じ大原口道標に「ゑ」があります(右の行)。

  大原口道標

  「ひゑい山」 (比叡山)

 ところで、「ひ」ですが、仮名とも漢字とも読める形ですねぇ。「ひ」は、「比」を崩したものなので、似通っていて当然です。
 まあ、ここでは比叡山ですので、漢字でも仮名でも同じなのですが……

 最後になりました。

  誓願寺迷子しるべ石

 新京極・誓願寺にある石標。最後の3文字。

 最初は「し」、一番下は先ほど読んだ「へ」(遍)でしょう。
 問題は真ん中の文字ですが、どんな漢字に似ていますか?

 これは、「留」を仮名にした「る」なのです。
 石碑の字をずっと崩していくと、「る」になるという、その雰囲気は何となく出ていますね。
 これは、迷子しるべ石というものでした。

 いろいろ見て来ると、意外に現在は使われていない形の仮名が多かったことが分かります。
 また、江戸時代や明治頃の人たちが、多様な仮名を使っていたこともうかがえますね。一見狭そうな平仮名の世界ですが、なかなか奥が深そうです。

 残された文字も含め、機会を見付けて続編をやりたいと思います。




 大原口道標 (京都市登録史跡)

 所在 京都市上京区寺町通今出川東入る表町
 見学 自由(路上にあります)
 交通 地下鉄「今出川」下車、徒歩約10分
 


 【参考文献】
 『くずし字用例辞典』東京堂出版、1981年


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コメント

現代人にはクイズですね。

多くの石碑をアップして下さいまして、大変勉強になりました。

私は京都に行く時はデジカメを携えていても、大概は目的地に急いでいたり、帰りには日暮れていたりして、石碑の撮影にまでは気が回りませんでしたが、これからは出来るだけ余裕を持って出掛け、石碑の画像も集めたいと思います。

昔のくずし字や変体仮名は、現代人にとっては最早クイズですが、却ってそれが古文書講座の盛況に繋がっているのでしょうね。

自宅近くには、家康の伊賀越えで知られる田辺街道、京都から大阪へ通じる山根街道、山根街道のバイパスとして整備された東高野街道などがありますが、残っている道標は少ないようです。

ありがとうございます

ご愛読ありがとうございます。

石造物に刻まれた文字は、崩し字として面白いほか、味わいのある「書」として鑑賞できるものもあります。
立派な石碑は、拓本される方もあるようですが、私もそこまではしていません。

また機会を見付けて石碑の文字特集をしたいと思います。
ご期待ください。

     船越
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