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船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

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仁和寺経蔵で、戸閉まりについて考える

洛西




仁和寺経蔵


 江戸時代の建物の宝庫・仁和寺

 「御室」の呼称で知られる仁和寺。
 現在、私たちが目にする伽藍は、江戸時代の前半に整備されたもので、寛永年間から正保年間(およそ1640年代)に建てられた建築が多数を占めます(国宝の金堂は、慶長18年(1613)築の内裏・紫宸殿を移築したもの)。
 国指定の建造物が多く、金堂は国宝、二王門、中門、五重塔、観音堂、鐘楼、経蔵、御影堂などは重文となっています。

 今回は、経蔵に注目です。

 仁和寺経蔵
  仁和寺 経蔵


  輪蔵がある経蔵

 この経蔵の中には、八角形の輪蔵(りんぞう、回転するお経の収納庫)があります。かなり大ぶりの輪蔵ですね。
 引き出し状になった768の経函があり、そのなかに仏教の経典集・大蔵経(一切経)が収められています。

 特別公開で、その内部に入れたのですが、気になったのが扉でした。

 仁和寺経蔵
  正面向かって右側面(南側)

 扉は、背面を除く3面に1か所ずつ付いています。
 両開きの桟唐戸(さんからど)で、藁座(わらざ)によって吊り込まれ、外開きになっています。上下に付けられた白色の部材が、藁座ですね。
 扉を藁座で吊り込むのは、禅宗様のやり方です。仁和寺は真言宗なのですが、この建物だけは禅宗様で建てられています。浄土宗・知恩院の経蔵も禅宗様ですから、経蔵は禅宗様で造るという了解があるのでしょうか。

 仁和寺経蔵

 寺院建築の場合、基本的に扉は外開きです。
 例外的に内開きになるのは、門と蔵です。
 経蔵は、蔵の一種だから内開きだろう、と思いきや、外開きになっています。仁和寺だけでなく、知恩院、妙心寺、大徳寺は言うに及ばず、各地にある国指定の経蔵を見てみると、みんな外開きになっていることが分かります。

  仁和寺経蔵 仁和寺経蔵
  外開きの扉  (左)正面 (右)北面

 今回、気になった点は、“戸締り”でした。カギの問題ですね。
 この扉、どうやってカギを掛けているんだろう、ということです。


 扉のカギは、どうなってる?

 考えてみると、建物は外観だけを見学することが多く、扉の内側は余り見ません。見ても、カギのことまでは気に掛けないものです。

 この写真をご覧ください。

  仁和寺経蔵
  扉に付いた金物

 開いている扉の写真です。
 扉の内側の両端に、タテ長の金物が付いています。
 上下にスライドするようになっていて、下端はL字形に曲がっています。

  仁和寺経蔵 ← の部分がL字形に曲がっている

 実は、これがカギなのです。

 建物側を見ると、足元の貫(足固貫)に、こんな穴が開いています。

 仁和寺経蔵

 この2つの穴こそ、タテ長の金物が刺さる穴なのです。

 この金具、いわゆる「落とし」というやつで、現在の建物でもドアを留めるための「フランス落とし」などが使われていますね。
 
 3か所の入口には、各2つ、合計6つの落としが付いています。
 頭が鈍いものですから、“内側から6つとも閉めると、外に出られなくなるなぁ”なんて疑問も湧いてきます。
 いろいろ考えたのですが、最後に閉める落としは、貫に着地させてから、そっと閉めていくと、穴のところで勝手にコトッと落ちて閉まるのかな?--とも思いました。でも、それも無理があるなぁ、などと悩み、やはり道具を使うんだろうか、などなど、ちょっとお手上げです。

 戸締りした様子は、外から見ると全く分かりません。

 仁和寺経蔵

 ちなみに、閉めた扉を開くとき、つまり落としを上げるときは、おそらくL字形の鍵を使うのだと思いますが、それをどこから差し込むのか、こちらも不明でした。

 現在では、正面の扉の外側に錠前が取り付けられています。

 仁和寺経蔵


 落としの呼び名

 戸締り金物の一種である、この「落とし」、正確にはどう呼ぶのか、なかなか難しい問題です。
 金物だから「落とし金」と言ったり、カギだから「落とし錠」と言う場合もあるようです。
 この経蔵の『修理工事報告書』を見ると、「落としコロロ」という “?” な呼称が出てきました(28ページ)。

 コロロって?

 『日本国語大辞典』や『大阪ことば事典』によると、「コロロ」とは「枢」の漢字を当て、「戸の桟(さん)。おとし。さる」とあります。大阪などの方言で、「くるる」の転化とされています。
 『大阪ことば事典』には挿図があって、戸に落としが描かれています。

 寺院のお堂には、昔はカギなど掛けなかったということです。
 さすがに門はカンヌキ(閂)で閉めたと思うのですが、仏罰を恐れて賊も入らなかったのでしょうか。

 仁和寺経蔵
  仁和寺東門のカンヌキ
  
 いまでは、どの寺院でも警備員さんやセンサーに頼らざるを得ない時代になってしまいました。
 扉やカギからも、寺院と信仰の歴史をうかがうことができそうです。




 仁和寺 経蔵 (重文)

 所在 京都市右京区御室大内
 拝観 経蔵は通常外観のみ(無料)
 交通 嵐電「御室仁和寺」下車、徒歩約3分



 【参考文献】
 『重要文化財仁和寺鐘楼・経蔵・遼廓亭修理工事報告書』京都府教育委員会、1993年
 『国宝・重要文化財大全 11 建造物 上巻』毎日新聞社、1998年
 牧村史陽編『大阪ことば事典』講談社学術文庫、1984年


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