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船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

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サッカー・三浦知良選手に学ぶ !?  文化財の愉しみ方

京都本




  三浦知良『やめないよ』  三浦知良 『やめないよ』 新潮新書


 “キング・カズ”の哲学に学ぶ

 今日は、仕事で奈良へ。
 奈良は、京都と並ぶ文化財の宝庫。少し文化財の楽しみ方について考えてみようと思います。

 そこで、ちょっと意外な視点から。
 サッカ-選手、“カズ”こと、三浦知良選手の言葉に着目です。

 三浦選手は、日本経済新聞に「サッカー人として」というコラムを持っています。
 2006年から現在まで続いていて、2010年までのものは、新潮新書に『やめないよ』というタイトルで収録されています。
 私は、いつもこの連載に感心しきり。三浦知良、世間ではチャラい人と見られているかも知れませんが、どうしてなかなか、しっかりした哲学を持った大人です。

 今回注目したのは、「基本を押さえて楽しむ」(2009年6月26日掲載)という5年前のコラム。今となっては、どういう理由か忘れたけれど、私はこの回を切り抜いていました。

 何事もこだわり始めるときりがない。僕の場合はファッションがそうで、今はスーツもシャツもベルトも靴も、決まった職人にオーダーで作ってもらっている。
 (中略)
 スーツの選び方一つでも考え方はいろいろ。スーツを引き立たせるには、いいシャツとベルトが必要。そこがダメだと、どんな高価なスーツも意味がないという人もいる。スーツに靴を合わせるんじゃなくて、靴に合ったスーツを選ぶという考え方もある。(182-183ページ)


 靴に合ったスーツを選ぶという、実に魅力的で、でも普通の人はなかなか思い付かない逆転した考え方をサラっと言ってしまう。これがカズ流。
 
 イタリア・ファッション界の重鎮と呼ばれる人たちにアドバイスを求めると、決まって「君が気持ちよく、楽しく着れればそれでいいんだよ」という答えが返ってくる。これはサッカーでも同じで、達人の域に達した名選手は戦術がどうとかよりも「自分が楽しむことが大事」と言うものだ。(183ページ)


 文化財も「自分が楽しく見られればいい」

 この言葉を聞いて思うのです。

 文化財や史跡というと、どうしても難しく考えがちです。
 けれど、文化財を見るときも、自分が楽しく見られれば、それでいいんじゃないか、と。

 そんなに肩肘張って構えることもないわけです。

 どんなに突き詰めても極められることではない。いい線まで来たと思っても、後で考えると全然わかっていないもの。サッカーも毎年新しい発見がある。(同)

 そのたびごとに新しい発見がある、というのはいいですね。
 お寺に行っても、毎回ちがった発見があったら、楽しいと思います。

 そのためには、どうするか?

 カズは、言います。

 ファッションもサッカーも、何が正解で何が間違いというものじゃない。ただ、だからといって何でもOKというわけじゃない。基本ができていないと何をしてもダメ。基本をしっかり押さえたうえで、自分の色を出して楽しむ。それが一番難しいことなんだ。(同)

 言いえて妙。まさに、その通りですね。


 “本”を見ながら、“本物”を見る

 では、文化財や史跡に接する際に、「基本をしっかり押さえたうえで、自分の色を出して楽しむ」には、どうすればよいのでしょうか?
 一番の近道は、現地で本を開きながら実物を見る、という方法です。

 そのとき、優れた“先達”になってくれる良き案内書が必要です。
 ただし、あまりにやさしいガイドブックは役に立たないもの。専門家が書いた、詳しいものを選びましょう。

 例えば、私が好きな「建築」分野でも、多くの良書があります。
 今日は、奈良行きということで、カバンに入れたのが、この本!

  太田博太郎『奈良の寺々』 太田博太郎『奈良の寺々』 岩波ジュニア新書

 建築史学の泰斗・太田博太郎先生の『奈良の寺々』です。
 30年以上前に書かれた本なので、古書で求めるしかないのですが、古建築を見る上で大変勉強になる本です。
 ジュニア新書なので、高校生や大学生が対象と思われますが、大人が読んでも大丈夫です。

 例えば、古代の寺院建築について述べるなかで、「長押(なげし)」に関して、次のような記述があります。

 出入口は平らな厚い板を用いた板扉(唐戸)です。板扉は軸になるところを丸く造り出し、上下の長押に穴を彫って入れ、両開きにします。
 長押は本来は扉を入れるために、柱と柱の側面に打ったものですが、これによって軸部を固めることができるので、扉のないところにも打つようになりました。(25-26ページ)


 なにげない記述ですが、扉を取り付けるための装置としての長押の発生が説明され、それが後に建物の構造を強化するための部材になっていくことを解説しています。

 かなりページが進んでいくと、また別のところで長押のことが出てきます。

 貫[ぬき]が入って、軸組を長押で固める必要がなくなると、長押はいらなくなります。しかし、扉はなにかに釣らなければなりません。そこで貫の側面に木をうちつけ、これに扉の軸受けの穴を彫って扉を釣りこみます。この木を藁座(わらざ)といって、飾りのため繰形[くりかた]をつけています。(131ページ)

 これまた、さりげなく書かれていますが、扉の取り付け部分が長押から藁座へと移っていくさまを簡潔に説明しています。

 もちろん、このように言葉だけで読むと、ちょっと分かりづらいですよね。でも、現地で実物を見れば、簡単に理解できます。

 東寺講堂
  東寺講堂(室町時代)

 東寺の講堂の扉です。
 扉の上部に注目すると、横長の材に扉が取り付けられているのが分かります。これが長押です。
 下部をよく見ると、扉の幅だけの長押がありますね。

 また、一番左端(角)の柱を見ると、長押が柱をかんでいるのが分かります。これが、軸部を固めている(柱を押さえつけている)様子が表れています。

 一般に長押は和様の建築に用いられますが、この東寺では、貫が多用されるはずの大仏様の金堂にも長押が用いられています。ぜひ現地で確認してみてください。

 次は、藁座です。

  妙心寺仏殿
  妙心寺仏殿(江戸時代)

 扉の上部を見ると、デコボコのある出っ張りに扉が取り付けられているのが分かります。この出っ張っている部材が藁座です。
 下部にもあります。
 太田先生が「飾りのための繰形」と言われている「繰形」は、このデコボコを指します。

 妙心寺は臨済宗ですが、一般に禅宗様の建築は、藁座に扉を付けるスタイルが基本です。

 という感じで、現地に行く代わりに写真で見てみましたが、本を片手に実地学習してみると、基本がすぐに分かります。
 『奈良の寺々』は、具体例に法隆寺や薬師寺を上げていますが、京都の寺院でも、もちろん通用する知識です。
 
 そこが押さえられたら、カズが言うように「自分の色を出した」見方をしてみましょう。
 本を見ながら、実物と照らし合わせて、「ここに書いてあるのは、この部分のことか」などと考えていると、ドンドン頭が回転するようになって、いつのまにか自分なりの考えも生まれてきます。
 そうなれば、文化財や史跡の見学も、さらに愉しめるようになるでしょう。




 【参考文献】
 三浦知良『やめないよ』新潮新書、2011年
 太田博太郎『奈良の寺々 古建築の見かた』岩波ジュニア新書、1982年


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