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船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

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鞍馬山から貴船神社へ - 木の根道を歩く -





木の根道


 山上の霊宝殿

 前回、鞍馬寺本堂に上り、ムカデのお守りを手に入れて満足した私は、さらに奥の院に向かうことにしました。

 本堂の左脇に回ると、奥の院への入り口があります。

  奥の院への入り口 この石段から奥の院へ

 石段を上って少し歩くと、鞍馬山霊宝殿があります。
 入館料200円。

  ・1階 自然科学博物苑展示室
  ・2階 寺宝展観室
  ・3階 仏像奉安室
 
 やはり、3階に上がって、有名な毘沙門天立像(平安後期、重要文化財)を拝せるというのが得難いですね。
 眉間を寄せた両眼の上に左手をかざし、右手に持った檄を突いて、遠望するポーズ。微妙な身体のひねりが、動的なイメージを与えますが、自然なしぐさとは逆ひねりになっていて、その工夫に感心させられます。
 両脇侍(吉祥天立像、善膩師童子立像)や、他の毘沙門天像も見ごたえがあり、しばし佇んでいました。

 ところが、この霊宝殿で“おやっ”と思ったのは、1階の自然科学の展示でした。


 鞍馬名物「ふごおろし」とは? 
 
 1階には、植物や昆虫の標本、岩石などが展示されています。何気なく見ていると、江戸時代の版本の図版らしいパネルが掲示されていました。
 そこには、鞍馬山で産出する青っぽいチャート(堆積岩の一種)が置かれており、その説明パネルでした。
 パネルには、その石がかつてあるものに使われていたことが解説されていて、「和久可世話」(1752年)という書物からの引用が示されていました。

 正月、上の寅の日、京洛貴賤、鞍馬山に詣づる如し。
 この日、鞍馬の山人、火打石を売るに、畚[ふご]にて参道の道端の谷を隔てたる高き小屋よりは、こなたへ低き岸に綱を引き、その綱に畚をつけて待ち、諸人、銭を畚に入れれば、すなわち引きて引き寄せて引き上げ、銭を取って、代り程の火打石を入れ、畚を下す。これを鞍馬の畚おろしといふ。甚だ興あるごとし。


 この石を、火打石として売っていたのですね。
 そして、その販売法が珍しくて、山の上から“ロープウェー”のように、ふご(わらで作ったカゴ)を行き来させたのです。
 下で、お客さんがふごに銭を入れると、それを引き上げる。銭の額を見て、それに応じた火打石を入れて、ふごを降ろしてお客に渡す、というスタイルです。
 ふごを降ろして渡される火打石なので、その石を「ふごおろし」と呼んでいました。

 「都名所図会」より「鞍馬寺」
  「都名所図会」巻6

 「都名所図会」(1780年)の鞍馬寺の絵を見ていると、なんと、この「ふごおろし」の場面が描かれているのです。
 画面の左端。

 「都名所図会」より「鞍馬寺」

 これはすごい!

 谷を越えて、かなり長距離で渡すんですね。名物になるわけだ。
 これこそ、山人と平地の人との交易ですねぇ。むかし読んだ民俗学の知識を思い出しました。

 霊宝殿の展示によると、この場所は、現在の鞍馬小学校の北200m、叡山電鉄のトンネル上だということです。
 
 鞍馬小学校付近
  鞍馬小学校付近

 ちなみに、黒川道祐「雍州府志」(1686年)にも、ほぼ同じ記述があって、「ふごおろし」が鞍馬名産として広く知られていたことがうかがえます。


 義経背比べ石から木の根道、そして奥の院へ

 鞍馬寺本堂は、標高410m。奥の院は、435m。たった25m差(標高、距離は鞍馬寺パンフレットによる)。
 しかし実際は、一度上ってから下る形になっています。その一番高いあたりが義経背比べ石があるところ。標高485mです。

 義経背比べ石

 義経背比べ石 義経背比べ石

 鞍馬山中で修行した牛若丸こと源義経。彼が奥州にくだる前に、名残を惜しんで背比べした石といいます。
 すごく平たい石で、背中を付けやすい形だな、などと、つまらない感想が浮かんできます。

 ここを左に上がると大杉権現ですが、私はまっすぐ下りました。

  奥の院への道

 ここを下ると不動堂。
 牛若丸が修行したという僧正が谷です。

 不動堂

 この先に、有名な木の根道があります。

 木の根道

 杉の根が露出し、自然の模様を描き出します。

 そして、奥の院魔王殿。

 奥の院
 奥の院魔王殿

 ここは広場になっていて、休憩場所に好適です。
 霊宝殿から奥の院まで、20分ほどでした。下り道が多いので、きつい行程というわけではありません。

  奥の院道標
   奥の院の道標


 北尾鐐之助の印象

 大阪毎日新聞の記者だった北尾鐐之助が著した「近畿景観」シリーズの1冊に『京都散歩』(昭和9年=1934)があります。
 昭和9年なのか、その前年なのか、夏の7月に、鞍馬と貴船を結ぶこの道を歩いた彼の印象「鞍馬、貴船の夏」を紹介しておきましょう。
 まずは、仁王門からの登り坂での出来事です。

 その坂道を登つて行くと、一人の女が杉木立の坂になつてゐる山側の路傍に佇んで、しきりに地面を拝むでゐる。みると、大きな百足[むかで]が一疋--踏みくだかれ、二つに断[き]れさうになつてうごめいてゐる。女はそれを礼拝[らいはい]しては
 ……どうぞ助かりますやうに。
 と念じながら、いつまでも立ち去らうとしない。百足はたしか、大和の信貴山の使ひ者であるといふやうなことを私はおもひ出した。
 鞍馬へ来るとかういふのをよく見かける。生駒、信貴などゝ同じやうに、この山は信仰に生きてゐるのである。(141-142ページ)


 ここでもやはり、ムカデが……
 ひとが一杯の山上から、さらに奥の院へ進んでいく北尾。

 背比石は、牛若丸が十六歳のとき、奥州に下るとてこの石と背比べしたといふのだが、四尺位の立石で、無論誰かゞ作つたものであらう。
 こゝは、奥の院の追分け[註:分岐点]で、頂上と反対に、南の方へ尾根を伝ふと大杉権現の祠、西の方へ下ると僧正ケ谷=奥の院の方へ出る。この四辻に暫く息んでゐると、鞍馬登りの種々相と云つたものが絶えず登つて来る。

 奥の院の方から、女学生を引率した昆虫採集の一隊が、汗を拭き拭き登つてくるかとおもふと、黙々として大杉権現の方から来た足駄ばきの男が、四ツ辻に来ると厳かに立ち止つて、奥の院の方へ、また向き直つて大杉権現の方へ、何やら唱へながら手を合せて礼拝し、また黙々として本堂の方へ下つて行く。法衣の裾をからげた尼さんが二三人。若い新婚らしい夫婦の一組。線香を手にもつた地方人らしい老人。兄妹らしい大学生と女学生。壜詰の酒を肩に引かけて、肌を脱いだ職人らしい男。可愛いゝ男の子の手を引いて、汗を拭き拭き登つて来る町の奥様。さうかとおもふと、僧正ケ谷の方から、……「かやうに候者は、鞍馬の奥、僧正ケ谷に住ひする客僧にて候」……と、「鞍馬天狗」を謡つて、朗々と名乗りをあげて来るワイシヤツ一枚の髯[ひげ]の男などがある。(145-146ページ)


 まったく、今日と同様か、それ以上にバラエティあふれる参拝者が、この山中に繰り出していたのでした。80年前の風景です。


 貴船神社へ

 貴船への下り道は、谷側に手すりが付けられており、年配の方でも安心して下れます。ただし、坂道は急なので、靴はしっかりしたものを履く必要があります。

  貴船への下り坂

 それでも、運がよいとこういう遭遇も!

 鞍馬山中の鹿

 子鹿です。
 あまり人を恐れません。写真も3カットくらい撮れました(笑)

 急な下りが続き、まもなく貴船の集落に到着します。
 奥の院から、15分から20分くらいの距離です。

 貴船

 ここから貴船神社までは約100m。

 貴船神社

 久しぶりに訪れた貴船神社は、予想外にたくさんの若い男女でにぎわっています。
 参拝してみると、どうやら「水占い」というおみくじが人気のよう。

 貴船神社

 貴船神社

 200円。
 特設ブース? で、巫女さんが売っています。

 水につけると、あぶり出しのように文字が浮き上がってくる仕掛けです。
 読んだ後は、結んで。外国の方が珍しそうに写真を撮っているところを撮影。

 貴船さんは、古くから水の神さまとして祈雨で信心されてきましたが、いつのまにか縁結びの神さまになっていました。
 それで若いカップルが多いんですね。

 珍しいもの好きの私は、思わずこのおみくじを引きかけましたが、さすがに思いとどまりました。
 そのあと奥宮に参拝し、叡電・貴船口まで歩いて帰りました。30分ほどかかりますが、ずっと下りなのでバスに乗るほどでもないでしょう。
 途中に、和泉式部ゆかりの蛍岩などもあります。

 貴船口駅
   叡電・貴船口駅

 京都市内からだと、半日余りの行程。大阪などからだと1日行楽に最適です。
 ハイキングがてら、鞍馬寺と貴船神社を参拝されてはどうでしょうか。


  鞍馬山中の木立




 鞍馬山 木の根道

 所在 京都市左京区鞍馬本町ー貴船町
 拝観 鞍馬寺は大人300円ほか
 交通 鞍馬寺へは叡山電鉄「鞍馬」下車、徒歩約5分
    貴船神社へは叡山電鉄「貴船口」下車、徒歩約30分



 【参考文献】
 「都名所図会」1780年
 黒川道祐「雍州府志」1686年(『新修京都叢書』所収)
 北尾鐐之助『京都案内』創元社、1934年


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鞍馬山霊宝殿

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