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船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

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松室重光が設計した明治の洋館・京都府庁舎に、窓の細かな工夫を見る





京都府庁


 京都を代表する明治時代の洋館

 京都府庁にやってきました。
 京都御所の西方、丸太町通を上がったところにあるのですが、府民の方もなかなか訪れないのが府庁ではないでしょうか?

 京都府庁
  京都府庁舎(旧本館、重要文化財)

 しかし、この建物(旧本館)は国の重要文化財に指定されていて、京都を代表する明治後期の洋風建築です。

 第一印象は「宮廷みたい」。あるいは「エレガンス」。

 役所の建物とは思えません。
 けれども、例えば兵庫県の県庁舎(現・兵庫県公館)を訪ねてみると、京都同様、エレガンスです。

 京都府庁舎は明治37年(1904)竣工(松室重光、久留正道設計)、兵庫県庁舎はその2年前の明治35年(1902)竣工(山口半六設計)となっています。この2庁舎は、明治後期から大正時代にかけての代表的な府県庁舎だと思います。
 しかし、このような外貌も、大正末からは変化していき、大阪府庁舎(1926年竣工)あたりになると、機能的で装飾を少なくした意匠になっていきます。構造も、煉瓦造から鉄筋コンクリート造へと変わっていくのですね。

 京都府庁

 この建物は、総工費約36万円でした。大胆に、現在の価値に直すと、50億円くらいでしょうか。
 ちなみに、明治末に大阪市中央公会堂建設のために寄付された金額(岩本栄之助による)は、約3倍の100万円でした。

 京都府庁舎は、民間の有力建築に比べると、半分くらいの坪単価だったといい、府庁舎としての威儀を整えるのが難しかったという話もあるそうです。

 外壁を見てみると、白っぽく見える部分は花崗岩を用いているのですが、クリーム色の壁面はというと……

 京都府庁
  下部は花崗岩

 京都府庁
  擬石

 右の拡大写真、モルタルに石のつぶを混ぜた「擬石(ぎせき)」というものです。いわば人造石ですね。
 この色合いは、石材でいうと龍山石風ですが、こちらの方が断然安上がりなわけです。龍山石風の擬石は、たいへん多く用いられていますので、近代建築を見る際に観察してみてください。


 平面は、ロの字型

 この建物を訪れると、中庭があって心がなごみます。

 京都府庁
  中庭

 中央に立派な桜の木があります。4月に訪れたら、さぞ綺麗でしょうね。

 この中庭ですが、もちろん“なごむ”ために設置されたのではなくて、照明器具の不十分な時代(明治中期です)、光を取り入れるために造られたのでした。

 この庁舎は、平面が「ロ」の字型をしています。
 ロの字の外周に各室が配置され、内回りに廊下が付けられています。

 京都府庁
  廊下 左の窓外が中庭になっている

 部屋の窓と同様、廊下にも窓がなければ真っ暗です。上の写真で、雰囲気がよく伝わってきます。
 このようなことで、ロの字の外周にも内周にも窓が一杯取り付けられているわけです。


 知事室は角部屋に 

 建物がロの字型をしているということは、四辺があり、四隅があるということですね。

 竣工時の図を見てみると、四辺には「第一課」「衛生課」といった普通の部署が配されています。ところが、四隅の部屋の使い方は少々異なります。
 2階には、知事室、貴賓応接室、府会議長室、参事会室が配置され、1階には警部長室、技師室、第五課課長室、製図室が置かれています。2階にお歴々の部屋が置かれているのがよく分かります。
 先ほどの光との関係でいえば、1階の西北隅、光線の安定した場所に製図室が配されています。また、最も明るいだろう2階南東隅が知事室です。ちなみに、兵庫県庁舎でも同じ位置が知事室でした。

 京都府庁
  旧知事室

 現在、この旧知事室は公開されているので、誰でも見学することができます(平日のみ、無料)。

 なお、建物背面(北)に突き出した部分には、議場が設けられていました。

 
 部屋によって異なる窓

 この府庁舎は、外から見ても中に入っても、かなり楽しめる建物です。
 じっくり観察していると、おもしろい点に気づきました。
 それは、窓です。

 京都府庁
  東北側面

 写真の右端が、いわゆる隅の部屋で、少し突き出しています。2階の窓は付け柱に挟まれた優美な三連窓で、さらに上には屋根窓まであります。1階は、アーチ型にくられたへこみに三連窓をはめています。

 京都府庁 京都府庁
  2階の窓          1階の窓

 写真の東北隅は、2階が参事会室、1階が第五課課長室になっていました。参事会室は、議会に出席する際に、参事会員(高等官や議員から選ばれた参事会員)の控室なのでしょう。10名ほどが入る部屋ですが、知事室や議長室と並んで格が高い部屋なのです。一方、1階は課長室といっても通常の事務室ですから、差は歴然です。
 このことが、窓の造りで表現されているわけです。

 1階、2階の長辺には、通常の課や係の事務室が置かれていました。
 この部分の窓は、ぐっと簡素になっています。

 京都府庁

 1・2階とも縦長窓を穿っています。四隅の部屋に比べると軽い装飾ですね。
 
 このように、部屋の用途と窓のデザインを見比べると、窓が“格付け”の道具だということが分かってきます。


 窓の開き方は…

 これらの窓は、デザインだけでなく、開き方も異なっています。

 長辺についた窓です。

 京都府庁

 窓が上下2フレームで構成されているのが分かります。
 つまり、上下に開く上げ下げ窓なのです。

 京都府庁

 上のフレームが外側に付いていて、下のフレームが上がるようになっています。

 内側から見ると、

 京都府庁
  正庁の上げ下げ窓

 こんな感じです。
 ワイヤーと滑車を用いて吊り上げる仕組みです。

 京都府庁
  ワイヤーの上端に滑車がある(正庁の窓)

 京都庁舎では、多くの窓がこのスタイルになっています。
 ところが、例の隅の部屋だけは、異なった窓なのです。

 京都府庁
  1階 北東隅の窓(北面)

 一目瞭然、上げ下げ窓ではなく、片開きの窓になっているのです。
 1・2階とも同じです。

 京都府庁
  同上(東面)

 この写真、窓の開き具合をよく見ると、右端の窓は全開しており、真ん中の窓は少しだけ開いています(左端は閉まっています)。
 このような微妙な開き具合の調整は、どのようにしているのでしょうか? また、全開したとき、風が吹いてきたら、バタンと閉まってしまうのではないか? と心配です。
 この工夫を知事室で観察してみました。

 京都府庁
  旧知事室(2階 南東隅)の片開き窓

 この窓の下部のアップです。

 京都府庁

 京都府庁

 たくさん穴のあいた平らな金具が付いています。金具の片側は窓に固定されています。反対側はフリーになっていて(写真下)、窓が開くと動くようになっています。
 写真上では、左端の穴にピンが差し込まれ、留められている状態です。
 写真下は、ピンが外れている状態です。

 1階で見てみると、

 京都府庁

 赤い矢印が金具です。矢印の左にピンが突き出しています。

 この金具が、いわば“突っ張り棒”になって、窓が自然に閉まるのをストップしているのでした。

 ただ、写真を見る限り、1階ではピンが機能しているのか確証が持てません。もしかすると、改造されているのかも知れないですね。
 本当は、事務室の中に入って、自分で操作して確かめたいのですが、さすがにそんなお願いも……。こういう写真を撮っているだけで十分あやしいです(苦笑)

 最後に。
 なぜ隅の部屋だけが、片開き窓なのか? 上げ下げ窓よりも、片開き窓の方が格上なんでしょうか? それとも別の理由なのでしょうか。
 式典などが行われる最も格が高い部屋「正庁」が上げ下げ窓なので、格の上下で考えるのも難しそうです。
 このことは、宿題にしておきましょう。

 ということで、窓だけでも楽しめる京都府庁。
 執務等のお邪魔にならない限り、わりと自由に拝見できますので、一度訪ねられてはいかがでしょうか。




 京都府庁舎(旧本館、重要文化財)

 所在 京都市上京区下立売通新町西入ル藪ノ内町
 見学 旧知事室や正庁は、平日に無料公開
 交通 地下鉄「丸太町」下車、徒歩約10分



 【参考文献】
 石田潤一郎『都道府県庁舎』思文閣出版、1993年
 京都建築倶楽部編『モダン・シティー・KYOTO』淡交社、1989年


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