07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
MENU

NEW ARRIVAL

PROFILE

船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

ARCHIVE

建築の言葉の海は広大なり(4) - がらり -

建築




がらり戸

 一般とは異なる建築の業界用語

 仕事の関係で、もう十年以上前でしょうか、建築関係の方たちと話をする機会が多かったのです。建築の研究者ではなくて、現場で設計・施工に携わっている人たちです。

 彼らの言葉には、いわゆる“隠語”、つまり業界用語が多くて、初めて聞くと全く意味の分からないものもありました。
 
 例えば、「タッパ」。

 これは、背の高さを示す語として、割と広く使われているようなのですが、完全な業界用語です。「タッパがある」と言うと、高さが高い、という意味なのです。
 漢字では、「立っ端」「建っ端」などと書くそうですが、耳で聞くと全然理解できませんでした。

 あるいは、「チョウバン」。

 これは「蝶番」(または「丁番」)で、ふつうには「チョウツガイ」と読みますけれど、建築の人たちは皆「チョウバン」と言い習わしていました。

 どの業界にも隠語は多数ありますが、建築界はその宝庫といえます。


 副詞か、名詞か?

 今回取り上げてみたい用語は、「がらり」です。
 これも当時よく耳にした言葉でした。

 一般には、「戸をがらりと開ける」とか「態度ががらりと変わる」というふうに、副詞として使いますね。少し擬音語のような趣もあります。
 けれども、建築の世界では「がらり」を名詞で使います。

 この洋館。

 新島旧邸
 新島旧邸(上京区、明治11年(1878)竣工、京都市指定文化財)

 明治時代の洋風住宅で、まわりにベランダのあるコロニアルスタイルの家屋です。同志社の創設者・新島襄・八重夫妻が住んでいました。
 構造的にも細部を見ても和洋折衷の建築となっていますが、窓や戸口には洋風の同じ扉が付けられています。

 がらり戸

 通常、この種のものは「鎧戸(よろいど)」と呼びますね。
 下向きに重なるように付けられた板が、よろいのように見えるからです。

 ところが、いつもの中村達太郎『日本建築辞彙』で「よろい戸」を引いてみると、「 『がらりど』ヲ見ヨ」と書かれています。

 はて、「がらり戸」とは?


 「がらり戸」とは?

 がらりど(がらり戸)
 がらり付ノ戸ヲイフ。又略シテ「がらり」トモイフ。
 人ニヨリ之[これ]ヲ「鎧戸[ヨロヒド]」又ハ「錣戸[シコロド]」トモイフ。(85ページ)


 がらりが付いている戸だから、がらり戸。
 そのままの説明ですが、別名「鎧戸」、または、かぶとの錣(しころ)に似ているので「錣戸」ともいうと述べています。
 では、「がらり」には何と説明してあるのでしょうか。

 がらり
 羽板[ハイタ]ヲ取付ケタルモノヲイフ。「はいた」ヲ見ヨ。


 とあるのですが、先を続けてみておくと、

 「がらり」ハ臭気抜ノ為メ、雪隠上ナドニ設ケラル。又、日除[ヒヨケ]ノ為メ、窓ニ設置サルルコトアリ。
 昔ノ「切掛[キリカケ]」ト称セシモノハ、羽板付ノ目隠塀ニシテ、即チ「がらり」ナリ。(84-85ページ)


  がらり戸の図(『日本建築辞彙』)
   がらり戸

 最初の部分が、羽板を取り付けた「もの」、という漠然とした語釈ですが、窓でも戸でもその他でもよいということでしょう。
 
 はいた(羽板)
 鎧板、錣板、がらり板ナドノ別名アリ。幾枚モ相離シテ斜ニ取付ケタル板ヲ云フ。其目的ハ空気ノ流通ヲ自在ナラシメ、若[もしく]ハ日光ノ直射及ビ雨ヲ遮ルニアリ。
 羽板ハ嵌殺[ハメコロシ]ノモノト開閉シ得ルモノトアリ。(後略)(16ページ)


 何枚もの羽根のような板を、斜めにして取り付けたものですね。つまり、このような状態です。

  がらり戸

 がらりを付ける目的もうなずけます。
 雪隠(トイレ)の換気口に付けて、臭気を抜く。窓に付けて、直射日光を避ける、など。
 新島邸の写真でも、開放したがらり戸の内側にガラス窓がはめられており、がらりは日光遮断の目的であることが分かります。もちろん、カーテンと違って風が通りますから、好都合なのです。
 私の仕事関係者は、通風口のことを「がらり」と呼んでいた気がしますが、納得できます。

 参考のため、現代の建築辞書の説明を引用しておきましょう。

 がらり louver
 羽根をすきまをあけて羽重ね状に並べて取り付けた建造物。→ルーバー

 ルーバー louver;louver boards
 薄くて細長い羽根板を平行または格子状に組み、開口部や照明器具に設けて、視線や風・光の方向を調節するスクリーン。→がらり、ブリーズソレイユ


 現在では、カーテンやブラインドが普及したので、重厚ながらり戸はほとんど用いられなくなりました。
 それでも、阪急電車に乗ると、今でも窓に銀色のがらりが付けられていて、伝統を感じますね。

 結局、がらりの語源はよく分からないのですが、職人ぽい面白い言葉だと思いました。




 【参考文献】
 中村達太郎『日本建築辞彙』丸善、1906年
 中村達太郎『日本建築辞彙[新訂]』中央公論美術出版、2011年
 『建築学用語辞典』岩波書店、1993年


スポンサーサイト

コメント

非公開コメント