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船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

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絵馬堂が意外におもしろい!(3) - 御香宮神社 -

伏見




御香宮神社


 “京都三大絵馬堂”のひとつ

 もし仮に「京都三大絵馬堂」を選ぶとすれば、規模や歴史性、絵馬の内容などからみて、北野天満宮、八坂神社、そしてこの御香宮神社になるでしょう。
 桁行四間、梁間二間、切妻造の建物で、宝暦5年(1755)に出来たものです。安永9年(1780)刊の「都名所図会」にも本殿・拝殿の右に絵馬堂が描かれていますが、絵では桁行三間、梁間二間、入母屋造の建物が「画馬堂」となっています。想像をたくましくすれば、むしろその脇に並立している「竈殿」が桁行三間、梁間二間、切妻造に描かれているので、こちらの方が後に絵馬堂になったのかも知れません。

 絵馬はかつては百面以上も奉懸されていたといいます。いまでも新旧さまざまな絵馬が見られます。

御香宮神社

御香宮神社

 たとえば、これなどは祭神の神功皇后を描いたものとも思われます。また近くに師団があったせいか、明治以降の軍事的な絵馬も見受けられます。


 算額とは?

 そんな中で、少し変わり種の絵馬があります。

御香宮神社

 文字はほとんど消えかけていて、判読できません。ただ、画面上部に丸がいくつも描かれているのがわかります。
 実は、これ「算額」というものなのです。江戸時代、日本独自に発展した数学=和算の問題を記したものです。

 江戸時代の和算ブームの立役者は、寛永4年(1627)に吉田光由が著した数学書「塵劫記(じんごうき)」です。これは、やさしい数学の教科書で、江戸時代のベストセラーのひとつでした。何度か改版しましたが、寛永18年(1641)の版では、巻末に解答の示されていない問題(遺題といいます)が12問掲載されていました。しばらくして、この問題の解答を自著に載せた数学者が現れたのですが、彼もまた新しい問題を掲載したのです。こんなふうに、次から次に問題を出したり解いたりするブームが起こったのでした。これを「遺題継承」といいます。数学史では、この遺題継承が和算の急速な発展に貢献したといわれています。
 算額には、問題と解答の両方を書くものもありましたが、問題だけを掲げるものもあって、これはまさに遺題継承というわけです。みんなが神社に奉納された算額を見て問題を解き、その答えも算額の形にして奉納したのでした。


 御香宮の算額は、どんな問題?

 さて、これからが今日の一番むずかしいところです(笑) 私は文系人間で数学はからきしダメなのですが……

御香宮神社

 たとえば、写真の右端の白い円。これがひとつの問題です。円の左上方が四角く欠けていますが、ここに長方形が画いてあり、その中に「天」という円と「地」という円が入っています。
 さて、問題です。大きな円の直径が13寸、長方形のタテが3寸、ヨコが4寸だったとき、「天」の円と「地」の円の直径は、それぞれいくらでしょう?

算額の問題 『近畿の算額』より
※この図の「天」と「地」は逆に印刷されていると思われます。大きい円を「天」と考えてください
 
 算額には、このあとに解法が記されています。残念ですが、私にはむずかしくて、とても説明できません。ただ、答えだけはわかるので書いておきます。解法は数学が得意な方に聞いてみてください。

 答え:「天」の円の直径は2寸4分、「地」の円の直径は1寸6分

  ※『近畿の算額』から引用した上図は「天」と「地」が逆と思われ、大きい円を「天」、小さい円を「地」としています。

 この算額には7つの図が画かれていて、それが幾何学の問題になっているのです。円の直径を解く問題が多いようです。
 一般に算額には、内接円に関する問題や三平方の定理を使う問題などが頻出しているみたいですね。もちろん幾何以外に代数の問題もありました。

 なお、この算額は、西岡天極斎と西岡菊斎が文久3年(1863)9月に奉納したものです。かすかに表題の「日下開算西岡流/算題」という文字が読めます。いまでは僅かに読める程度ですが、西岡流の門人112名の名前が列記されているそうで(野々山省吾氏の調査)、伏見近辺の弟子が多いのは当然ですが、離れた近江の門人が数多く含まれているのが目に付きます。

御香宮神社
 絵馬堂全景

御香宮神社
 葡萄文様の蟇股が美しい(北側の妻)


 復元された算額

 この絵馬堂には、復元算額も掲げられています(日本数学史学会近畿支部の製作、1975年)。

御香宮神社

 天和3年(1683)に山本宗信という人が御香宮に算額を奉納したらしいのです。らしい、というのは、現物は残っておらず、長谷川鄰完という人がその解答を八坂神社に奉懸していることからわかるのです。長谷川の算額は、元禄4年(1691)のもので重要文化財に指定されています。

御香宮神社

 少し見づらいですが、こんな問題でした。
 
 数学史学者たちの調査により、全国に1000面近い算額が残されていることがわかっています。京都でも、北野天満宮、八坂神社、安井金比羅宮、長岡天満宮、丹後の智恩寺など、多くの寺社に算額がありますが、貴重な文化財のために収蔵されていて見られないものもあります。

 数学がお好きな方は、算額や和算の本はたくさん出版されていますので、ぜひチャレンジしてみてください! 苦手な私は、このくらいにしておきます(笑)


御香宮神社 御香水




 御香宮神社

 *所在:京都市伏見区御香宮門前町
 *拝観:境内自由
 *交通:近鉄電車桃山御陵前駅より、徒歩約3分、京阪電車伏見桃山駅より、徒歩約5分



 【参考文献】
 近畿数学史学会『近畿の算額 数学の絵馬を訪ねて』大阪教育図書、1992年
 小寺 裕『だから楽しい江戸の算額』研成社、2007年
 「都名所図会」(『新修京都叢書』6、臨川書店、1967年)


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