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船越幹央

Author:船越幹央
博物館で学芸員をしています。また、京都市内の大学で非常勤講師を務めています。
生れ育った京都の魅力を歴史・文化財・史跡を中心にお伝えします!
やっぱり、京都は奥深い。知れば知るほど、味わい深い。このブログを読んで、京都を歩いてみてください!

[主な取材等]
テレビ:NHK「ブラタモリ~京都~」、BS-TBS「高島礼子・日本の古都」、BS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」ほか
新聞・雑誌:小学館「サライ」、朝日新聞、日本経済新聞ほか
見学会:「まいまい京都」ほか

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建築の言葉の海は広大なり - 中村達太郎『日本建築辞彙』 -

京都本




日本建築辞彙


 明治時代の建築辞書

 建築用語を調べる辞典は今どき数多くありますが、その嚆矢と言われているのが、この『日本建築辞彙』です。

  日本建築辞彙 中村達太郎著

 明治39年(1906)に出版された辞書。
 先日、河原町の古書店に入ったら、たまたまあったこの本。明治42年(1909)刊の5刷で、定価は1円65銭。
 この本、これまでは復刻版を愛用していたのですが(太田博太郎・稲垣栄三編『中村達太郎 日本建築辞彙[新訂]』中央公論美術出版、2011年)、せっかくだから買ってみました。1,500円でしたし(安い!)

 中村達太郎(1860-1942)は、帝国大学工科大学などで建築学の教鞭を執った工学博士で、建築学会の会長も務めていますが、実作が少ないせいか、ほとんど知られていない人だと思います。

 復刻版の解説によると、「工部大学校卒の中村は、洋風建築の設計は学んでいたものの、建築の現場に関しては何も知らなかった。特に、在来の木造技術についてはほぼ完全な素人であり、それに関する知識の決定的な不足に気付いたのは当然のことである」(藤井恵介氏)とあって、大学卒業後、皇居造営を通してその感を強くしたと指摘されています。
 
 この本の自序で中村は、どのように語彙を選択したかを説明し、「予は高襟[ハイカラー]よりは印袢纏[しるしばんてん]を取れり」、「古語及び雅語よりは寧ろ通用語に重きを置いた」と述べています。
 「『搏風』を『破風』とし『切端[ツマ]』を『切妻』と書くごときは、学者より見れば不都合ならんが印袢纏主義なる予は却[かえっ]てよいことと思ふ」とも言っています。“印袢纏主義”なんて、かなり格好いいですね。
 「とらっす」(トラス)のような外来語も出てきますが、多くは日本在来の建築用語です。そのため、21世紀の私たちからみると、かなり難解な言葉も少なくありません。けれども、図が実に豊富で、言葉による説明では分かりにくくても“一目瞭然”“百聞は一見に如かず”的なところがあるのです。


 ふだんから読んでおけば、かなり役立ちそう

 この写真を見てください。

 沓巻
  旧武徳殿(京都市武道センター)

 松室重光設計の旧武徳殿。その背面の増築部・車寄せ(亀岡末吉ほか設計)のクローズアップ。角柱の足元ですね。
 では、この模様のたくさん付いた金物を一般に何と呼ぶでしょうか?

 まぁ、分かるはずもない質問です。
 ところが、『建築辞彙』には、その呼び名がちゃんと載っているのです。

 沓巻

 沓巻(くつまき)。

 語釈は「柱下ノ化粧金物。図ヲ見ヨ。」と簡潔です。
 本当に、図を見ると一発で分かってしまいますね。
 図をよく見ると、上部は八双(はっそう)金物のように出入りがあって、下部は蓮弁というか胡麻殻(ごまがら)じゃくりというか、凹凸になっています。武徳殿の金物は、猪の目を付けたりして華美な装飾ですが、全体の造りは図のものを基準にしていることが分かります。おもしろいですね。

 武徳殿の金物を見付けて、何という名前か調べることは、さすがに無理です。しかし、ふだんから『建築辞彙』を読んでおけば、なんとか対応できるかも知れない……、そんな期待を抱かせる辞書なのです。


 「竹の節欄間」とは?

 先日、東寺の観智院を訪れました。
 そのレポートは、こちら。 ⇒ <東寺の観智院は、書院造のおもしろさが感じられる桃山建築>

 そのとき、部屋の欄間が「竹の節欄間」になっている、という説明があったのです。その欄間自体は分かるのですが、なぜ「竹の節」というのか一向に見当が付かないのです。
 竹の節欄間の一例です。

竹の節欄間
  竹の節欄間の例(龍安寺方丈)

 ぜんぜん竹じゃないですね。
 でも、『建築辞彙』を見れば、たちどころに納得できます。

竹の節欄間

 ボーリングのピンのような部分(なんという譬え!)に、竹みたいな「節」があるでしょう。だから「竹の節」欄間というのです。
 ちなみに、ピンのような部分は「親柱」で(橋の欄干などと同じですね)、「節」には別の呼び方もあって、「篠[シノ]」とか「横篠」とも言うそうです。これは、竹つながりの呼称ですね。

 このように、他では勉強できない細かい説明が中村博士の真骨頂です。

 そして、私が好きな蓮(ハス)系の飾りもちゃんと説明されており、「逆蓮」(さかばす)も「握蓮」(にぎりばす)もあります。

握蓮
  握蓮の例(南禅寺三門)

握蓮
  『日本建築辞彙』より「握蓮」の図

 この図を見たら、絶対に間違えません。


 細かいこだわりも満載!

 しかし、ちょっと細かすぎる説明もあります。
 たとえば、これ。

露先

 露先。
 虹梁などの端に、若葉形の彫物(絵様=えよう)があります。
 こんな感じですね(明治後期のものなので華美です)。

露先
  若葉の絵様の例(仁和寺勅使門)

 中村博士は、この全体を解説するのではなくて、模様の先端の“すっ”と尖った部分を「露先」と呼ぶと教えてくれます。かなりマニアックです。たぶん知らなくてもいい、そんな気になります。
 でも、図が綺麗で見とれますね。

 さらには……

両折桟唐戸
  両折桟唐戸の例(妙心寺法堂)

 両折(もろおり)桟唐戸(さんからど)です。この扉の名前ではなく、

手先

 ふたつ折れになっている2枚の戸の、吊元に近い方を「釣元唐戸」、遠い方を「手先唐戸」と教えてくれます。
 なかなか、です。

 例をあげていくとキリがないので、このくらいにしておきましょう。

 『日本建築辞彙』、建築の言葉の海に漕ぎ出した中村達太郎博士のこだわりと熱情が感じられて、勉強にも気合が入ります。ただ原本は、明治時代らしくイロハ順の配列なので、引くには不適。辞書として引くときは、アイウエオ順に組み直した復刻版を使いましょう。
 でも、読み物として接するときは、絶対原本がおススメです。なんといっても先人の息遣いが伝わって来ますから。




 書 名:『日本建築辞彙』
 著 者:中村達太郎
 出版社:丸善
 刊行年:1906年


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